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書名:

母 へ の 鎮 魂 歌: シアトルライフ 6

著者: 若林 茂
 
 
『母 へ の 鎮 魂 歌』
 
は じ め に
 

足を骨折して 入院生活していた頃の母( 84 歳)
 

 私の母は昨年、 2 月 15 日、私が脳出血で倒れ埼玉の朝霞厚生病院に緊急入院している時に心臓発作で亡くなりました。 私の父も祖父も脳梗塞を患い亡くなったこともあり、私が脳内出血で倒れ、救急車で運ばれ、そのまま朝霞(あさか)厚生病院に搬入されて入院生活を送っていることは、母にショックが大きすぎるということで、弟・宏と妹・栄子の配慮から伏せてありましたので、心安らかなる あの世への旅立ちだったと思われます。

 母・房子は 秋田県横手市に生まれ、当地の秋田県立横手女学校を卒業し上京しましたが、女学校時代に後に有名な作家になった石坂洋二郎に国語や英語を教わったことを誇りにしていました。そして、毎年その女学校の同窓会が東京新宿の京王プラザホテルで行われていたのですが、それに出席するのを愉しみにしていました。

介護度2級の認定を受けていて、食事の支度もおぼつかない母を見舞い、夕食の支度をして母のおしゃべりを聞いた最後の日は、昨年の1月7日水曜日の夕方でした。

 年末の<中欧鉄道>旅行の話に母は熱心に耳を傾けていて、ウィーンのチョコレート・ウェハースを美味しそうに賞味していました。その時も「パリからフランスの新幹線 TGV でスイス・ジュネーブまで行き、レマン湖の遊覧船に乗せてもらった茂とのヨーロッパ旅行は、本当に楽しかったよね」と目を細めていました。

 近年の日本の年配夫婦は、夫が亡くなってからようやくその束縛から解放されて自由を満喫するというケースが多いようですが、母もそのパターンそのものでした。

 特に旅行好きな母は日本国内はもとより海外旅行にもよく出掛けて後半の人生をエンジョイしていました。その中でも母が 80 歳の時に私が案内した<ヨーロッパ親子珍道中>は、忘れ難い想い出になっているようでした。

 晩年の母はいわゆる<まだら呆け>でしたが、私とのヨーロッパ旅行で訪れた都市の地名や食べたものはよく記憶していて、幾度も幾度もそれを反芻していました。

   私が海外旅行に出かける時は、いつも餞別としてお小遣いを包んでくれて「旅行のお土産話が一番楽しみだからね」というほど知的好奇心が旺盛でした。そういう母親が亡くなり、海外旅行の体験談に熱心に耳を傾けてくれる人がいなくなり寂しさが募ります。母の一周忌が過ぎましたが、本書を<鎮魂歌>として亡き母に捧げ、冥福を祈りたいと思います。
 
2010年2月24日  和光市のマンションにて       若林 茂
 
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