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書名:
情愛の精神 <シアトルライフ 2>
著者:
若林 茂
お わ り に
人生の楽しみとして<飲む、打つ、買う>よりも、私には<子育て>の方が楽しかったのです。それが「はじめに」の要点でしたが、それが子供が学校を卒業して、就職をし社会人になるとむしろ<子供に育てられる>という状況になってきます。
私の場合、それはコンピューターなどの IT 関係で潤や慶に教わることが、次第に多くなっていったからでした。
アメリカで暮らし始めた頃は、日本語のワープロの世界から、英語のコンピューターの世界に転じたのですから、それをマスターするのも大変でした。それを初歩のタイピングから習得して、ある程度自分なりに操作できるようになり、子供達にも教えました。
しかし彼らの進歩には加速度があり、私の数十倍の速さで上達していったので、やがて私が教わる立場に逆転しました。 IT 関連のテクノロジーの進展は、日進月歩ですので、彼らのサポートがなければ、もはや私にはそれは手も足も出せません。
特に日本でウェブ・デザイナーをしていた潤が、昨年秋に1年がかりで完成にこぎつけてくれた私のホームページ「 Waka-mail.com 」は、そのシンボルでもありました。これをもってしても<子育て>の楽しみが、<子供に育てられる>楽しみに変化していったことが、明確によく判ります。
一般の人々にとっても、私にとっても長い間の楽しみとしては、<飲食>ということがあります。アメリカ西海岸シアトル郊外で暮らす私にとって近年は、日本食へのこだわりが強くなってきました。むしろアメリカに住んでいるからこそ、日本の文化や食物により強い関心を抱くのかもしれません。
飲食といっても、近年はあまりお酒は飲みませんので、もっぱら食べるのが楽しみになります。アメリカで暮らしているにもかかわらず私の食事は、ほとんどが日本食です。炊きたての白米御飯と味噌汁は、素朴でありながらつくづく美味しいと感じます。
そして私は麺類が大好きですので、ソバ、ウドン、ソーメン、冷麦、ラーメンなどをよく食します。戦前から営業しているウワジマヤという大きな日系スーパーが近くにありますから、それら日本の食材が手軽に入手出来るのです。
ただし、日本でも名産の特産品は、なかなかウワジマヤでも販売していませんので、日本の心優しい友人たちが時々郵送してくれる特産品が楽しみでもあります。
今年の夏はその麺類の特産品が続けて送られてきましたので、これらの味を満喫することができました。まず高松の盲目詩人宮脇欣子さんが「讃岐うどんの半生」、続いて心友松崎靖さんの紹介から交流が進展した群馬の星野物産会長である星野精助翁が、「上州手振りうどんと生うどん」を送ってくれました。
さらに盟友ハイブロー武蔵さんが、「福岡の吉井ソーメン」と「秋田の稲庭うどん」を、そして高崎の中学校教諭新井国彦さんが、上州伊香保の「水沢うどん」と共にいつものように新潟の銘酒「菊水・一番しぼり」を送ってくれました。
日本からやって来るゲストの方々がよく成田の免税店で、高級な日本酒を購入してきてくれますが、私自身は新井さんが定期的に送ってくれる新潟の銘酒「菊水・一番しぼり」が、近年では一番旨いと感じています。
それは特別高価でなく手ごろな価格であり、香りとこくがあり、ほんのりした甘味が頭脳や精神の疲れを癒してくれるからです。蕎麦やうどんと一緒に盃に2杯ほど頂くだけでも、私は陶然としてきます。いわば池波正太郎的な世界ですが、そういう体験を私はこよななく愛しており、まさに至福の時と感じています。
ただし、私はそれらお酒でも麺類でも1人占めすることはありません。必ず是清長老夫妻と子供たちにもおすそ分けします。
今年93歳と86歳を迎えた老夫婦の人生の最大の楽しみは、飲食であることを熟知しているからです。お二人ともお酒はたしなむ程度ですが、私同様に「菊水・一番しぼり」が大好きなのです。
私自身が本当に美味しいと感じるものを敬愛する人にも堪能してもらい、その味覚を実感してもらうことこそ<情愛>だと信じているからです。また、子供にもお酒の試飲や麺類でもお菓子でも必ず試食させています。それは日本食の美味しさを、舌で実感してほしいからでもあります。親から子供に伝えていくべき家風とか文化だという自覚からでもあります。
そういう愛情表現の仕方を、私は慈父浦野利雄氏の言動から学び取りました。<情愛>というのは、言葉と共に行動が伴ってこそ相手にも伝わるものなのです。浦野氏は御子息の芳正君を「獅子が子供を谷底に落とす」ように厳格に育て上げ、今では芳正君が「株式会社ナカヤ」の社長として経営者のみならず社会人としても立派に成長しました。それはやはり父親の深い<情愛>が、あったゆえなのでしょう。
本書は、「ワカメール2002と2003」さらに長男潤のワシントン大学卒業を祝した小冊子「私の読者探検1」(2000年7月刊行)より、文章を選び再編集したものです。
「ワカメール2002と2003」のオリジナルは、 レターサイズと呼ばれるA4版の見開き2ページで構成されていたものでした。それをレターサイズの一面に再構成するのには、思いのほか時間を要してしまいました。特に今回もカラー印刷にという願いがあり、写真の再編集に時間がかかってしまいました。
本書の一次校正は、理化学研究所の図書館司書である木村郁子さんが、二次校正は群馬県高崎市片岡中学の国語科教諭である新井国彦氏が御好意からして下さいました。特に木村さんのコツコツと辛抱強い取り組み方、新井さんのプロフェッショナルな視点からの質問および校正には、頭が下がりました。
現在では木村さんと新井さんは、私の執筆生活を支えてくれる両輪であり、心底感謝しています。そういう心優しいお二人に巡り会えたことも<情愛の精神>ゆえかもしれません。
ワシントン州レドモンドにて、2005年9月21日 若林 茂
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