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書名: 愛妻詩の残響<私の読書案内6>
著者: 若林 茂
 
 
<短文の名人>である随筆家の金平大兄に感謝と敬愛の念を込めて
 
は じ め に
 
  随筆家の金平敬之助氏と私の縁結びは、群馬県・大間々(おおまま)町に在住する松崎靖さんでした。松崎さんと親しくメール交換を続ける中で、「愛読書は何か」という問い掛けに答えて、実際に数冊を郵送してもらったことがありました。
  その中に金平敬之助著『今日何かあった?ことばのご馳走D』がありました。朱線や書き込みのある書物は、まさに松崎さんの愛読書でした。
  金平氏は早稲田大学政経学部を卒業後、住友生命に就職されました。住友生命の常務を経て、スミセイリースの社長・会長を歴任した人であり、人間味豊かな随筆家でもあります。
  早朝読書の一環として、金平氏の著作を幾たびか読み返し、サブノートも作成しました。そのようなプロセスを経た結果、<短文の名人>である金平氏の文体の本質は、<剪定の美学>にあると思い至り、幾たびか読書案内にも書かせてもらいました。
  それがご縁となり、金平氏との直接交流が始まりました。最初に東京から電話を頂いたのは、2004年1月5日、月曜日の早朝でした。シアトルでは、珍しく雪が降り積もった朝でした。
  「若林先生の書評は、著者以上に著者の気持ちを上手に表現してくれますので、有難いです。それで、お願いがあります。母校の早稲田大学の校友会誌に、私の著書『鏡は先に笑いません』の案内が掲載されることになりました。その書評を書いてほしいのですが、如何でしょうか。・・・」
  <短文の名人>と尊敬している文筆家から、思いがけずも嬉しいご依頼を受けて、その場で快諾を致しました。
  初めて頂いた電話にもかかわらず、文章、旅行、講演、野球など話が弾み、30分も長話を楽しませてもらいました。外は白銀の世界になり、外気温も低下していましたが、私の内面は温かくぬくもったのを、今も鮮明に覚えています。
  その翌日には、金平氏から履歴書や著作リストなどが、FAXで届きました。その手際の良さと謙虚さには、目を見張る思いでした。
  「実(みの)るほど頭(あたま)の下がる稲穂かな」という諺がありますが、金平氏の言動は、まさにそれだと実感したものです。
  意味するところは、「稲の穂は、実が入ると重くなって垂れ下がってくる。学徳が深まると、かえってその言動が誰に対しても謙虚になる」と言うことです。
  私が属してきた慶応大学やアカデミズムの世界では、頭脳明敏な人にもたくさん出会いましたが、人徳のある人は、極めてまれでした。そういうこともあり、稲門会出身の学徳を感じさせる金平氏の言動は、私には極めて新鮮でした。
  その後、しばらくは太平洋を挟んで、郵便による交流が続きました。ただし、郵送ですとシアトルと東京では、1週間余りの日数を要します。
  それで、私が通常、活用しているコンピューターによるEメールでの交流を提案したのです。それを金平氏は、快く受け入れてくださり、「70の手習いですので、宜しく・・・」として地道にEメール操作を習得していかれました。
  その習得努力には、頭が下がりました。それは、私の親しい人でも「PCのメール操作をマスターする」と宣言したにもかかわらず、挫折した人達が多かったからでした。
  それは、金平氏がビジネス・エリートとして、ワープロが打てたという下地があったことも寄与しているのでしょうが、その本源こそは、知的向上心だと思えてなりません。
  ちなみに、私のメール・メイトで70代になってメール操作を習得したのは、金平氏のみです。現在では、平均週3回のメール交換をさせてもらっています。
  また、私は近年、春と秋に日本に一時帰国していますが、金平氏からは、会食を共にする機会を必ず頂いています。
  横浜か東京の分かりやすい場所で、昼前に待ち合わせします。まずは生ビールをワン・グラスだけ傾けつつ、ゆっくりと寿司などの昼食をご馳走になります。
  その後、喫茶店に場所を移しても、さらに話が弾みます。八洲(やしま)学園大学の講義や、講演で全国を駆け巡る忙しい方にもかかわらず、毎回3−4時間も時間を空けてくださるのです。
  人生最大の幸福の一つは、「心許し合える知的な人と食卓を囲み、愉しくおしゃべりを交わせること」というのが、私の人生観や価値観でもあります。
  そういう意味合いからも、金平氏と共有する時間と空間は、私にとっては、まさに<至福の時空間>です。
  金平氏は、1932年生まれですから、今年75歳になられますが、外見も内面もとても70代と思えません。その若々しさの秘訣は、二つあると推察しています。
  一つは、<知的好奇心>が特別に旺盛であることです。知識と経験を兼ね備えた人だけに、それをベースにして、さらに新しい知識や技術を習得されていくのです。
  ですから、金平氏の著述内容や講演の眼目は、決して陳腐化しません。そういう、舞台裏の努力を決して怠らない人間性が、多くの読者や聴衆を惹きつけるのだと類推できます。
  もう一つは、一卵性夫妻のような<仲睦まじい夫婦仲>です。人間は幾つになっても、愛する人がいて、その人にも愛されているという自覚があってこそ、他者にも優しくなれるものです。
  金平夫妻は、お揃いの服装で、よく外出されるそうです。海外旅行もペアルックで、颯爽(さっそう)とよく出掛けています。
  金平氏の<知的好奇心>と<仲睦まじい夫婦仲>こそ、若々しさの秘訣でしょう。それを、私自身も継承できたらと切に願いつつ、本書を金平敬之助氏に捧げる次第です。
 
2007年8月1日   若林 茂
 
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