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| は じ め に |
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人生はさまざまな出逢いにより、豊かにも幸せにもなるというのが、私の昔からの持論です。その出逢いにも、色々あります。
まず思い浮かぶのが、人との出逢いです。続いて、本との出逢いがあります。さらに、音楽や映画や絵画あるいは、旅での忘れ難い光景や建物との出逢いもあります。
人は未知なるものとの出逢いにより、知性や感性が磨かれ成長していくものです。
これら様々な出逢いの中で、相互作用があるのは、人との出逢いが一番ビビッドです。
例えば、若い時に素敵な異性に巡り会い、恋に落ち、それが実った時には、人生がバラ色に見えるものです。ところが、その恋が破綻した時には、奈落の底に落ちたごとく人生のすべてが灰色に思えたりします。
人は人によって生き生きしたり、逆に沈鬱になったりするものです。とりわけ男と女の関係は落差が大きいものです。
それに比べれば、男と男の関係は比較的落差が少ないような気がします。特に学生生活を終了し、社会人として一人前と認知された後での出逢いは、そこはかとない滋味があります。
私の場合は、慶応義塾大学経済学部というアカデミズムで社会生活をスタートしましたが、そこでの恩師よりもより一層人間的魅力に溢れている人物との出逢いにより、人生が大きく変わりました。
一般にインテリと称される大学教師の中には、人間的に未熟な人が多く、偽善家ないしその対極にある偽悪家が、かなりの比率で存在しているようです。
それに反して、中小企業の経営者というのは、建前よりも本音で生きている人が多いような気がします。実際、彼らは建前で飾っていたら生活が成り立たないので、本音で社会生活を送らざるを得ないのが実情かもしれません。
私個人が、<人生の恩師>と敬愛しているのは、間もなく喜寿を迎える浦野利雄氏です。 |
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浦野 利雄氏 |
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この人は、東京の下町である向島で長らくナカヤというピアノ店や文具店そして煙草販売店を経営してましたが、もう十数年前に引退して悠々自適の生活をしています。
私が初めて出逢った頃は、ピアノ販売日本一という実績の輝きが濃厚な時で、カミソリのような頭脳を誇っていました。ですから、自他ともに「浦野利雄は、向島のヒットラーかムッソリーニ」とも言われていました。
それだけならば、何処にでも見受けられる中小企業のオーナー経営者ですが、この人は働くことは人の2―3倍は当たり前で、しかも絶えず工夫をしていました。
頭を使いながら働くというのが、この人の行動パターンになっていましたが、根本的な性格として負けず嫌いというものがあったに違いありません。
一般的に商人は、「利に敏い」と言われますが、この人のお金の使い方は、キッチリしていました。「出すべき時は出し、締める時は締める」
そういう光景を幾度となく垣間見て、池波正太郎の世界を思い浮かべたものです。『剣客商売』の秋山小兵衛のように、おはるが居るのかもしれないと、想像を逞しくしたものでした。
秋山小兵衛のように浦野氏は、お金に使われることなく、お金を上手に散らしていました。
私が経済学の研究を始めた時の戒めが、「冷静なる頭脳されど温かな心」でしたが、浦野氏の求める生活態度が、まさにこれと一致していました。
また豊富な読書量による知識と数限りない体験からなる話術が巧みで、何度聴いても惹き込まれてしまいました。「ワンパターン・オンステージ」と御本人は、謙遜しますが、<ナカヤ節>と言われる名調子は、老いて益々盛んです。
私はこの<ナカヤ節>に接したくて、一時帰国するようなものですが、それほどに生きる勇気を授けてくれるものです。ですから喜寿を迎える浦野氏に本書を捧げる次第です。 |
| 2003年10月10日 レドモンドにて
若林 茂 |
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